20090407

松山からハスラー2という名のゲームセンターが消滅した。

存亡の岐路に立っていると知らされてから、ハスラーを愛するプレーヤーたちは奮起した。3月の地域トップの座を譲ることはなかったし、全国ランキングの上位にも名を連ねた。けれど、閉店を抑止するまでの力には届かなかった。というより、この店が役目を終えることはあらかじめ決定された上での告知だったのだろう。最期のあがきなど、はじめから検討さえしていなかった。それもまた、この店らしい結末といえる。

イムリミットを間近に控えた3月下旬の某日、深夜のハスラーでひとり休憩していた。それが最後の夜になるかもしれないと予感しながら。いつもなら格ゲーコーナーから発せられるはずの奇声も今は聞こえない。2Fのネットカフェ(と呼ぶのも躊躇われる規模ではあるけれど)を利用しようという客も見当たらない。そういえば松山に一時滞在する人達はみんな、ここをホテルハスラーなんて呼んでいたっけ。そんなことを酸素の足りない頭で考えていたら、瞼が重くなってきた。うん、最後にホテルハスラーを満喫するのも悪くないな。こんなに静かに眠れるのも、初めてかもしれない。


……遠くで声がする。


「見えてきやがったぜー!」
「ヒャハー!あの頃と何も変わっちゃいねえ」
「覚えてるかよあン時のことをよー、おれは奴のド頭に――」
「最後の弔いをしてやろうじゃねえか、なあ」

それは夢だったのだろうか。かつてハスラーを愛した男たちが一堂に会し、めいめいに名残を惜しんでいた。筐体に酒をかけてやる者、晩酌を始める者、ブーツに提げたナイフを抜いて名を刻もうとする者、数年前の喧嘩のつづきをやる者……。
男達の熱気は今や最高潮に達し、老いぼれの店を再びぎらぎらと染め上げている。

「なあハスラーよ、楽しかったよなあ――」

ある男の声にシンクロするように、自分の意識が重なってゆく。

「ほんとロクでもねえ店だったがよ」
「ほんとロクな店じゃなかったけど」



楽園だったよ、お前は。