20090302

バンバンおよびハスラーは学生街に位置しているため、小腹が空いた時などは食事をとる店の選択肢がいくらでもある。
今日もポン太、オルテンシア君と共にどこかへ食べに行く話になった。

「この時間だとわっさ屋か元帥よなー」
「それよりパール行きましょうよ、パール」
「そんな店あったっけ」
「えー知らないんですか、有名ですよ」

松山に住んでから随分たつのに、おれはその店を聞いたことがなかった。
ポン太に促されるまま、暗い夜道を3人で歩いて行く。3月上旬の風はまだ肌に冷たい。こうして互いに年齢も所属も異なる者同士が、同じ趣味を共有しているお陰でここに居るのだと思うと、妙な気分でもあり楽しい気分でもあった。

「着きましたよ」

それは家のすぐ近所にある定食屋だった。普段は昼間にしか通らないせいで、ソフトクリームやかき氷を提供するための店だとばかり思っていたが、確かに明かりは点いているし中で食事をしている客の姿も見受けられた。ただしお世辞にも入りやすい店とは言いがたい。古びた散髪屋かクリーニング屋の中身が定食屋になっただけのような雰囲気すらある。

中に入ってカウンターに3人で座り、しばらくすると奥から普段着姿のおばちゃんが出てきた。古びた散髪屋かクリーニング屋にいるようなおばちゃんだった。ポン太が「よくばり定食C」を頼んだのにつられて、おれが「よくばり定食B」を注文すると、横にいたオルテンシア君も一瞬躊躇してから「よくばり定食A」を頼んだ。するとおばちゃんが笑って、

「やっぱりなー、ここに3人で座って誰かがA頼むと大抵B、C と続くんよ」
「そういうもんですか」
「大抵、そうよ」

大抵、という部分におばちゃんは妙にアクセントを置いて喋った。
間もなく登場した「よくばり定食B」は唐揚げにステーキ、サラダとスープがついてご飯もおかわり自由であり、味も中々のものだった。カウンター越しに腰掛けたおばちゃんは煙草を吹かしている。パールという名の店ではあるが、アコヤガイより猛毒巻貝アンボイナガイのほうがしっくりきそうだ。

「おばちゃん、今日もちょっと、アレで」

テーブルで食事をしていた男性が立ち上がり、おばちゃんに何事か告げてから店を出て行った。金を払った様子がないということは、ツケなのだろうか。定食屋なのに?おばちゃんは紙に何かをメモしながら、

「またかいな」

……ということは男性は複数回に渡ってツケを溜め続けているのか。定食屋なのに?
様々な疑問が湧いてくるものの、こういうカオスな空間が嫌いではないため予想以上にパールはおれの中で高評価を得た。なんやかんやと客に話しかけては、自宅で作ったらしいおかずを振舞ってくれるおばちゃんも味があっていい。

店を出てからバンバンに戻り、ユートさんを加えておそらくQMA5では最後になる学その他縛りをやった。386点。全答できたので素晴らしい括りになっただろう。スポタイ縛りは220点だったとはいえ。



バンバンを出てから家に帰る道の途中で思った。松山の街も人もみな移り変わるのだろうけれど、叶うならばこんな時間をこれからも、互いに知りすぎず離れすぎない愉快な人達と一緒に過ごせたらいいと。